#1『伝わらない理由』
── 行動経済学のアプローチ

ちゃんと伝えてるつもりだった。言葉も選んだ。資料もつくった。ときには動画も添えて、熱量も込めた。それでも、人は動かなかった。
「響かない」「伝わらない」「なんで?」
…もしかすると、原因は“想いの強さ”じゃなかったのかもしれない。「人は論理で動かない」なんてよく言うけど、真実はこうだ。
人は、“動ける構造”がなければ、動きようがない。
行動にはすべて理由がある。その裏には、「人間のクセ」を前提にした設計がある。言葉、感情、流れ、空気感──それらが“行動に向かう構造”として編まれていない限り、いくら伝えても、届かないのは当然だ。
「正しいこと」よりも、「しっくりくるもの」が人を動かす。それが、行動経済学の本質であり、トータルクリエイティブの起点なのだ。
目次
行動経済学が示す“人間のクセ”
プレゼン・企画・広告で起きていること
設計するべきは「行動までの流れ」
仕掛け事例|LIFE PROJECT HARUNO の設計視点

行動の背景には「人間のクセ」がある
ちょっと本気で話していくから、お前キャラが違うぞ?なんていう声が聞こえてくるんだけど、無視して書いていく。マーケティングの世界では「行動経済学」がずっと注目されている。GAFAもこの分野のエキスパートをどんどん採用し、サービスの基礎を構築しているくらいだ。この学問が教えてくれるのは、 「人間の判断って実はかなり直感的で、非合理だ」ということ。
たとえば──
人は「損をしたくない」気持ちの方が「得したい」気持ちよりも強い。
人は「選べる自由」があると、逆に何も選べなくなることがある。
人は「みんながそうしている」と聞くと、つい自分も従ってしまう。
そう、人は合理的に動くのではなく、“それっぽい構造”に動かされるのだ。

プレゼンが“伝わらない”理由も、ここにある
どれだけ良い資料をつくっても、どれだけ熱意があっても、「聞き手が自分で“行動”を選びたくなる構造」がなければ、心までは動かない。
それは、以下のようなケースでも起きている。
相手の立場に立ったつもりが、実は“自分目線”のまま。
理屈では正しくても、感情が動いていない。
情報が多すぎて、結局“何をしたらいいか”が見えない。
これはプレゼンに限らず、広告やキャンペーン、商品開発、PR戦略、すべてに通じる話だ。
設計するべきは「行動までの流れ」
大事なのは、「行動までの構造」を設計すること。
最初に感じる“違和感”を設計する →「ん?」と思わせたら、そこから注目が始まる。
“自分ごと化”のポイントを設計する → 相手の経験や生活にひっかかる情報を仕込む。
行動に至る“後押し”を設計する → 「他の人もやってる」「今だけ」などの動機づけを入れる。
つまり、「伝える」だけでは不十分で、“行動したくなる構造”ごと設計する必要があるということ。
これは、トータルクリエイティブの土台
「トータルクリエイティブ」という言葉は、見た目をきれいに揃えることじゃない。“人が行動を起こす”までの設計全体のことだ。そのためには、言葉も、写真も、動画も、空気も、全部が構造の一部になる。
そして、その中心には、人間という不完全な存在への深い理解がある。

LIFE PROJECT HARUNOで仕掛けた《まんま写真展》も、ただの「展示」ではなかった。“地元の人が主役”というコンセプトを軸に、「まんまの日常」が“誰かの心を揺さぶる瞬間”になるように設計した。展示の順番、来客動線、空間の余白、キャプションの言葉遣い。すべてが“自分ごと化”への導線だった。

古民家プロジェクトだってそう。『来た人の捉え方によって価値が変わる、そんな場所にする』と、すぐに”この場所の答え”を出すのではなく、まずは“違和感”を設計し、カタチになっていく途中で“共感”と“行動”を仕込んだ。古民家プロジェクトが始まると、見学者が増え、価値を作るために関わる人が生まれ、まちの未来を語り始める人たちが出てきた。
これらの仕掛けに共通しているのは、全て「人を動かす構造」があったということ。
「人は“正しさ”ではなく、“しっくりくる”に動かされる。」
その感覚を、設計できたとき、伝わる力ははじめて本物になり、人が動き出すのだ。
次回予告
Vol.02『伝える力の正体 』──人が動く設計図のつくり方
Neuf Production 平山了将(お仕事モード)